技術者インタビュー Vol.01

「デジタル化が進んでも手作業は何十年も残るのです」

田中は、現場一筋42年、試作車のパーツを手作業で設計図と寸分くるわずにつくり上げる。彼は現代の名工として、厚生労働大臣から「卓越した技能者」表彰* を受けた。まさに日野の匠の一人である。この表彰について彼は「本当に名誉なこと」と言いながらも、「日野自動車には、他にも同じ賞をもらえるほどの技術を持った人がたくさんいると思います」と、誇らしげに語る。

田中が日野自動車へ入社を考えたきっかけは、自身の技術を磨きながらモノづくりができる試作車の製作の仕事に興味を抱いたことであった。高校生の頃から彼は、とにかく製造現場でモノをつくりたかった。特に、人の手作業の技術が物をいう試作車の世界に強く惹かれたという。以来40余年、試作車製作の最前線でチームをけん引してきた。

モノをつくる上で一番大切なことは?と聞くと、二次元の図面から出来上がりを理解して、形にしていく、「図面を読む力」と答える。設計部門からの図面を見て、より良いモノづくりのための提言を願い出ることもある。長年の経験と実績があればこその技術だろう。自らがつくり上げた部品が、次工程である実験部門から高い評価を得た時、自身の図面の読み方は間違っていなかったと、何物にも代えがたい達成感を感じるという。

日野自動車とはどんな会社だと思うか?と聞いてみた。田中は、「技術力が高く、組織力が強い会社」と答え、「納期、安全性、品質などをつくり上げていく現場のチームワーク、そして一人ひとりの技術が卓越している」という。

彼は後進の指導にも熱心だ。「若い人には、仕事を楽しんでほしい」と語る。同時に、「今の若い人たちは真面目で、モノづくりの世界にはとても向いていると思う。そして、時代が変化し、デジタル化が進んでも、この手作業は試作工程ではずっと必要とされる技術だと考えている」と語ってくれた。10年で一人前といわれるこの世界だが、田中の今の思いは、より早く一人前の後進を育てることにある。

これまでで一番うれしかったことを聞いてみた。「グアム島へ旅行に行った時、たまたま立ち寄ったショッピングモールに自分の手掛けた車が展示されていて、自分の技が世界に生かされていると実感した。この時ばかりは感激した」と笑う。

最後に世界のお客様や販売店の皆さんに向けてこう語ってくれた。「日野自動車は、考えられないほどの時間を使って実験を繰り返し、製品の品質を高めています。必ずご満足いただけるトラック・バスを造っている自負がある。世界の人々に日野自動車の品質を感じてほしい」。

<注記>
*「卓越した技能者」表彰:卓越した技能を持ち、その道で第一人者と目されている技能者を表彰する1967年に創設した制度。技能の世界で活躍する職人や技能の世界を志す若者に目標を示し、技能者の地位と技能水準の向上を図ることを目的としている。

田中明夫

日野自動車 車両生技部
特級板金技能士

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