<インタビュー>鳥取県智頭町 共助が導く交通の道

新しい領域2023年8月31日

地方部においては、市町村自治体やNPO団体などを運営主体とした自家用有償旅客運送が導入されるケースが増えていますが、運営主体においては交通事業に関するノウハウや後継者不足といった課題に直面しています。
この課題解決に向け日野は、持続可能な地域公共交通を支える新たな取り組みとして、自家用有償旅客運送向けの遠隔による運行管理受託サービスを、2023年7月1日より開始しました。本サービスでは、日野が運営主体から委託を受け、運行管理業務を遠隔で行います。主な受託内容としては、ドライバーへの運行前後の点呼をはじめ、乗務記録や車両点検など法令で定められた業務の結果を運営主体に代わりに記録、保管します。

今回は、同日よりサービスをご利用いただいている智頭(ちづ)町役場と立ち上げのサポートをおこなった鳥取県庁の皆さんに、地域における公共交通の課題や今後の展望についてお話を伺いました。

※バスやタクシーなどが運行されていない地域などにおいて、自家用車を使用して有償で旅客運送できる制度

1. 地域公共交通の未来を考える

――――協力と信頼で進む

智頭町は、鳥取県南東部に位置し、面積の約90%を山林で占める自然に囲まれた地域です。かつては、公共交通として民間バス事業者の協力の下、町営バスを運行していましたが、県内の他の自治体においてバス事業者が撤退する報道を受け、智頭町においても改めて山間部における公共交通を考え直す必要があり、住民の利便性を高めるため、すぐに智頭町単独での地域公共交通計画の作成を進めました。
計画では、町営バスの運転手不足や利用者数の減少、路線や運行時間帯の不便さといった課題を考慮したうえで、「持続可能な公共交通」として、住民と事業者、そして行政が力を合わせて運営する共助交通が最善であるとの結論に至りました。この共助交通は、デマンド予約システムやAIを活用して効率的に運行することを目指しました。(智頭町 酒本さん)

――――「来るもの拒まず」の姿勢で新しい取り組みに着手

共助交通立ち上げのタイミングは、ちょうど各家庭に設置されている町内告知放送端末(以下、告知端末)の更新時期と重なり、この告知端末上で利用できるデマンド予約システムを検討しました。システム導入に合わせて共助交通の実証運行を実施しましたが、システム以外の課題として、ドライバーのシフト管理が大変であることが明らかになりました。本格運行に向けては、シフト管理のみならず、法定の運行管理業務も必要となるため、資格を有した専門人材が必要になります。(智頭町 西川さん)

日野の運行管理受託サービスは、2回目の実証運行が終了したころに提案を受けました。日野と言えば、トラックやバスを扱うメーカーであり、運行管理を本当に担えるのかと半信半疑ではありましたが、智頭町の課題を解決できるのなら新しい取り組みであっても、「来るもの拒まず」の姿勢で提案を受け入れてみることにしました。
本格運行直前の3回目となる実証運行において、智頭町まで足を運び期間中滞在するなど、日野のフットワークの軽さや具体的な提案への対応速度は、智頭町にとって大きな信頼となりました。(智頭町 松村さん)

鳥取県智頭町役場外観

智頭町役場 企画課 課長 酒本さん

課長補佐 松村さん

主幹 西川さん

2. パートナーシップで地域を支える

――――「おせっかい文化」が功を成す

共助交通「のりりん」の導入により、これまでバス利用が困難であった地域が解消されるなど、地域の交通環境は改善され、住民の利便性は格段に向上したと思います。今回の事業が実施できた背景の1つとして、智頭町特有の「おせっかい文化」があります。これは、地域の人々が積極的にお互いを支え合う文化で、実証運行でも、おせっかいな住民ドライバーが積極的に参加してくれ、運行を支えるなど、取り組みを前進させる上では、「おせっかい」が大きな力になりました。
本格運行においても、17人(取材時)もの住民ドライバーが集まっているのは、本当にすごいことだと思っています。「自分たちでこの地域を守ろう」という、住民ドライバーの「おせっかい」が、日々の柔軟な運行やサービスを可能にしています。(智頭町 西川さん)

※智頭町が導入した乗合型有償運送のサービス名称

――――ドライバーの声

ドライバーを引き受けた理由は、住民自治の考えがあるからです。地域づくりに答えはないですよね。算数でいうところのゼロ分のイチって解がないですが、0が0.1なら答えが出るように、たとえ小さくてもひとりひとりの一歩に価値があると言い続けているんです。まずやってみて必要なら後で変えればいいので、まずは地域のことは地域でできるようになるのが大事だと思っています。
ドライバーの仕事はある意味“遊び”、だけど社会性を持っているところがいいですね。対面で話すのではなく座席の前後に座っての会話もおもしろくて、まるでお互いに先生と生徒のようにいろいろなことを教えあっています。今はハンドルを握っていますが、いつかは乗る側としてお世話になる時が来るので、それまではドライバーをしていきたいですね。
(山形地区振興協議会 会長兼ドライバー 大呂さん)

実証運行の時からドライバー登録をしています。町会議員をしていたとき、すぎっ子バス(町営バス)がなくなったらどうするかと共助交通の導入を検討していました。のりりんは乗降場所として200ヶ所以上の登録ポイントがありますが、もっと増やしてほしいという声もあります。乗降場所も限りがあるため、智頭町ならではのおせっかいで、降車時の送りはピンポイントな要望に応えられるよう努めています。
のりりんは共助交通だから“ただ運ぶだけ”ではだめと思っています。できるだけ乗客と会話をもって「のりりんはいいよ」ということを伝えています。そして乗客の声、ドライバーの声は、行政に伝えています。意見交換をしていかないと問題を一人で抱えて悶々としてしまうことがありますからね。
(山郷地区振興協議会 副代表理事兼ドライバー 大藤さん)

(左から)大藤さん、大呂さん

広報紙に利用方法などを掲載

――――新たな課題と変化する地域

利便性が向上した一方で、新たな運行システムによって地域の人々の行動パターンが変化しています。例えば、従来はバスで出かけた際に、帰りのバスまでの待ち時間で商店街を利用する姿がありましたが、希望時間に目的地から直接自宅へ帰ることができるようになったことで商店街の売り上げや人通りが減少しています。これは新たな課題として、商店街だけではなく、商工会や中小企業といった地域全体で協力し、駅前や商店街に住民が滞在する空間をつくり、再び活気を取り戻していく必要があります。
交通の利便性の向上を目指していますが、同時に地域全体として解決すべき問題も浮き彫りになっています。このような課題は鳥取県、特に中核都市でも起こっており、今後取り組んでいくべき課題となっています。(智頭町 酒本さん)

3. 智頭町だけに止まらない、地域交通の活性化を目指して

――――できることから地道に

智頭町内で利用の伸びない地区が2つあり、まだまだ地道な広報活動が必要と感じています。幸いにも、利便性を感じている方からの感謝の声も届いています。日々のフィードバックを基に、サービス改善に努める姿勢は地域の住民から好評を博しているため、地域内での普及と理解を促進するために今後も説明会を開催し、地域の利便性向上を図る取り組みを継続していきます。
現在は住民向けのサービスですが、将来的には観光客向けプランの提供など、新たな仕組みを導入していきたいと考えています。(智頭町 西川さん)

――――より良い公共交通の実現に向けて

鳥取県は公共交通の維持確保を図るため県内民間バス事業者の運行コストの赤字補填等の支援や、自治体やNPOなどが運営する町営バスや共助交通への支援を実施してきましたが、慢性的なドライバー不足や利用者の減少などが重なり、路線縮小を行わざるを得ない場面もでてきました。こうした課題に対応するため、令和2年度により効率的で持続可能な公共交通を実現するための新たな支援制度を立ち上げ、自治体などが新たな交通体系を導入しやすくする支援も拡充しました。
智頭町は先行してこの制度を活用し共助交通の実証運行を開始しており、智頭町が先行して取り組みを始めたことは、鳥取県全体の交通課題解決に向けて、非常に意義があることだと感じています。(鳥取県庁 野坂さん)

智頭町の取り組みにおいて、日野との連携は非常に重要な要素となっています。特に遠隔による運行管理の進展は、将来の地域交通を支える上で、不可欠なソリューションになっていくと思っています。また、地域の交通事業者や住民の意見に耳を傾け、解決策を提案するため、住民ドライバーや運行オペレーターの皆さんが日々直面している困りごとや課題にも目を向け、改善を続けていきます。より良い公共交通の実現に向けて、日野も一緒に取り組み続けて欲しいと思います。
こうした公共交通への取り組みが智頭町だけではなく、日本の多く課題を抱える自治体に広がり、地域の活性化に貢献できることを期待しています。(智頭町 酒本さん)

鳥取県庁 交通政策課
課長 野坂さん

オペレーター 米本さん
専任で予約対応をサポート

手元のタブレットで乗車予約を確認

実際に利用する住民の方々

住民ドライバーが乗車誘導

智頭駅

日野は、地域により近い場所で持続可能な公共交通を支えるソリューションの開発と提供を加速させるため、9月中旬に鳥取県でオフィス拠点(鳥取市、SANDBOX TOTTORIを活用予定)を新規開設します。今後も自家用有償旅客運送の支援に留まらず、地域の皆様と共に公共交通における課題解決に取り組んでまいります。

SANDBOX TOTTORI

本件に関する問い合わせ先

日野自動車株式会社 ソリューション事業部 地域交通担当
電話番号 03-6911-1682  メールアドレス mobi-support@hino.co.jp

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