<インタビュー>アクセラレータプログラム「HINO DE SAFARI」 優秀賞受賞 LocationMind株式会社さま

データサイエンスで物流をより豊かに

HINO ACCELERATOR 2021~HINO DE SAFARI~

新たな領域2021年10月21日

2021年5月に、日野は、オープンイノベーションにより新規ビジネスを創出するプログラム『HINO ACCELERATOR 2021~HINO DE SAFARI~』をスタートし、「スマートな物流の実現のために」「もっと豊かなモビリティ社会の実現のために」をテーマに参加企業を募集しました。自社の経営資源と協業企業の技術・サービスを掛け合わせて共創するアクセラレータプログラムとしては商用車業界初の取り組みでもありました。※2021年5月時点、日野調べ
応募企業は60社にものぼり、第一次審査ではデモデイ(最終審査)に進む5社を選出。参加企業と日野の担当者との共創によって、8月18日のデモデイまでに各アイデアがブラッシュアップされていきました。
今回は、みごとにグランプリを受賞された損害保険ジャパン株式会社さま、優秀賞を受賞されたLocationMind株式会社さまの社会課題解決にかける想い、事業化アイデア、今後の展望などについて、事業化へ向けてチームを組む日野の担当者(以後、共創担当)とアイデアの対談をお伝えします。

後編として、LocationMind株式会社さまへのインタビューをご紹介します。
【提案タイトル】日野自動車のVehicle Probeデータを用いたSaaS型事業
【概要】日野自動車のVehicle Probeデータを用いたSaaS型事業を構築し、トラックを用いる運送事業者やインフラ事業者が高度な事業判断を依拠できるデータ分析を提供する
プレゼン資料(PDF)(3.07MB)

前編記事:「交通事故ゼロ」の実現に向けて、思いを一つに(グランプリ受賞 損保ジャパン株式会社さま)

<お話を伺ったのはこの方>
LocationMind株式会社 代表取締役 桐谷直毅さん

(左から)日野自動車株会社 共創担当 電子電装開発部 チーフエンジニア 歌谷公宏、
新事業企画部 加藤航、DX推進部 村上大介、羽鳥慎吾

1. 課題解決のその先に、新たなビジネスを生みだす

――――「HINO DE SAFARI」への参加はどのような思いからでしょうか

LocationMind株式会社、以後LM 桐谷さん:日頃から物流領域への関心も高く持っていたこと、日野さんの抱える社会課題の解決に共感したことがきっかけです。
私たちは、位置情報のAI会社です。人流事業を主に、IoT事業部や人工衛星を活用したサテライトインテリジェンス部門など、位置情報の上流から下流までを扱う事業を展開しています。東京大学発のベンチャー企業で、研究室のメンバーで構成しているLMには、純粋に位置情報のビッグデータを分析することを楽しんでいる人間が揃っているのですが、日野さんのコネクティッドデータに興味を持ったこともあり、千載一遇の機会に奮って参加しました。
人や物が動くと、必ずビジネスのチャンスがあります。私たちのサービスは、どんな領域の産業にも活用いただけると考えています。

――――LMさんの魅力はどんなところでしょうか

共創担当 歌谷:私自身は、コネクティッドデータをつくりこむ開発者の立場にあります。1台毎に解析できるデータ仕様を検討してきました。しかし、桐谷さんのおっしゃるように、数が集まると、扱い方も解析の方法も変わります。さまざまな活用ができると気付かされ、とても有意義です。
共創担当 加藤:私は、以前はADAS開発という開発の上流側を担当していましたが、技術が成立するかどうか、常にスピード感を持った判断が求められます。LMさんは、この見極めのスピードがとても速く、非常にパワーがあるところが素晴らしいです。

2. トラックは高レベルのデータを持つデバイス

――――今回ご提案された「Vehicle Probeデータを用いたSaaS型事業の構築」のアイデアは、どのようにして生まれたのでしょうか

LM 桐谷さん:以前から、中型・大型物流倉庫事業者と仕事をする機会が多かったこともあり、物流が現代の高度に多様化された社会を支える重要な領域だと考えてきました。そんな中で、トラックを活用する運送業がとても辛い状況にあるということも課題として意識していました。荷主や倉庫のオペレーションでは、IoT化、オートメーション化、データサイエンス化が進むのを横目に見ながらも、運送業をどうにか助けられないか、さまざまな方から相談をいただくこともあります。私たちも、トラックの位置情報分析を合理化すると大きな価値創造機会があるだろうな、というアイデアは漠然と持っていたので、この「HINO DE SAFARI」で、一度、しっかりまとめ上げて提案したいという思いがありました。
まずは、IoTの塊として既に高いレベルにあるハードとしてのトラックは課題ではなく、それを使っているビジネス側に課題があることを前提に、課題を再設計しました。このアイデアでは、トラック1台ごとの位置情報、積載量データ、故障データ、安全装置作動データを活用し、「移動・滞在」を軸に、運送事業者向けには会社単位の、インフラ事業者向けには地域単位の問題・課題を浮き彫りにします。例えば、運送事業者は積載率問題や最適経路問題、帰路が空荷である問題、インフラ事業者は渋滞や異常気象等による危険問題です。課題として何を解決するか、その意思決定ができるようにサポートします。

――――日頃から社会課題について思いを巡らせてヒントを得ているのですね

LM 桐谷さん:これまで多くの企業の経営層とご一緒してきた経験から、大きな方針や大きな潮流をもとに物事を考えるクセが叩き込まれているのかもしれません。今回も、データの規模を考えると、社会的インパクトがあることをやりたいという思いがありました。ベンチャー企業をやっていると、そういうことしか考えなくなるんです。ちょっと背伸びをしながら提案しています(笑)

――――アイデアの第一印象は

共創担当 歌谷:何を知りたい、何を解析したいなど目的に合った車両データを生成、取得しています。目的外でのデータの使われ方は、あまりイメージがつきませんでした。そんな中で提案資料を見て、こんなソリューションが生まれてくるのかと驚愕しました。最初から完成度が高かった印象です。
共創担当 加藤:日野が情報の活用を考えると、お客さまに還元すること、つまりデータを活用したサービスを使うのは、お客さまである運送事業者向けのソリューションに偏りがちです。しかし、LMさんのご提案では、運送事業者だけでなく、インフラ事業者などを含めた、もっと広い範囲でのソリューションが考えてられていて、視点の高さに驚きました。これは、日野で話しているだけでは出てこないことです。

――――運送事業者とインフラ事業者の2者へアプローチする意義とは

LM 桐谷さん:この2者は、商流上は領域が異なりますが、実は、データ分析上ではそこまで変わりません。位置情報分析のプロセスの基本は、個体ごとに丁寧に分析をかけ、それを積み重ねることです。そこから作られたデータは、さまざまに利活用が可能となります。ビジネス面からは運送事業者とインフラ事業者に分け、提案方法もサービスも大きく異なりますが、角度を変えて眺めているだけなのです。今回の共創では、こういった考えをベースに拡張性のあるサービスの開発を進めていきたいと思っています。
ただ、一方で、データ提供者の意向に寄り添うことも大切にしたいです。日野さんとの議論の中でも、このことは重視してきました。その点で、運送事業者や彼らをサポートするインフラ事業者にアプローチするというのは、非常に自然だろうと考えています。

――――サービスを提供できるお客さまはもっと広がっていきますね

LM 桐谷さん:「トラックを使って物が動く」という限りにおいては、さまざまな展開が考えられます。日野さんの場合は、海外市場もありますし、建設用ダンプなども考えられます。あるいは観光用バスなどもありますね。今回の提案では、運送事業の基本的なものに絞りましたが、例えば、渋滞予測やある領域の最適化など、応用的で高度なものに展開することも可能です。

――――このアイデアを実現する中での日野の役割とは

共創担当 加藤:ビジネスモデルを描く上で、データを提供して下さる運送事業者の利益を第一に考えるというポリシーは大前提です。ただ、データ解析からサービスを生み出す過程で他のプレーヤーが必要になった場合は、日野のネットワークを活用できると考えています。例えば、データ提供を受けるステークホルダーについてはLMさんからアイデアをいただきますが、日野は、運送事業者やバス事業者のステークホルダーがどんな方たちで、どんな課題をお持ちなのかをしっかりまとめていきたいと思っています。それらがマッチしたとき、そこにビジネスチャンスが生まれるのではないでしょうか。双方で知恵を絞っていきたいですね。

――――サービス普及の道筋は

LM 桐谷さん:これまでの経験から、やはり初期の段階ではコストも含めてハードルはあると考えています。しかし、一度、仕組みが確立できれば、データは自動的につくり続けることができます。まずは、ご興味を持って共感して下さる企業からサービスを提供してサービスを磨き続けることから始めたいです。実績を積み重ねて、さまざまなアイデアと工夫を重ねていくことで普及的サービスに仕上げていくのが一つのパターンだと思います。もう一つは、日野さんとLMのこれまでの知見を生かして、営業チャネルを築いていくことです。共に仕事をする仲間をいかに増やしていくか、あるいは、逆に限定してやっていくか、しっかり設計することが大切です。
データの提供方法の観点から考えることもできます。究極の姿の一つは、オンラインからサブスクリプションができるような形のサービス提供かもしれません。しかし、最初からこれを目指すのは、私としてはやや懐疑的です。日野さんとLMで、それぞれに哲学があり、どういうデータをどういう領域で浸透させて行くべきか骨太の方針を作り上げることこそが、中長期的に最も普及するサービスを作るためには重要と感じます。やはり、最初は自動化をせず、一定程度で人が介入しながら、いずれ熟度が高まったタイミングで自動化に踏み切れれば良いと思っています。

――――事業化に向けての課題はどこにあるのでしょうか

LM 桐谷さん:どれくらいアグレッシブにやれるか、だと思います。今後、日野さんとLMに限らず、他にも協業する仲間が増える可能性もあります。おそらく、アイデアも広がったり縮んだりします。そんな中でも、目的を見失わずにチャレンジ精神とスピード感を持って、着実に成果を出したいです。私たちはベンチャースピリットを持ち寄らせていいただきますので、日野さんと寄り添ってスイートスポットを見つけていきたいと思います。
データというのは、さまざまなことに活用できるので、このアイデアをもとに、既存のお客さま向けにアレンジすることも可能です。少しずつ理解や認知を広げて、大きな策につなげられればと思います。ガンガンいく準備はできています!
共創担当 村上:桐谷さんのおっしゃるとおり、私の中でも、やはりスピードが大事になると思っています。「来週アプリの改善をしましょう」「今夜中にパッチを当てましょう」など、これまでの日野とは異なる対応や意思決定が求められます。せっかくのオープンイノベーションの取り組みで、しかも、LMさんというベンチャー企業とご一緒できるチャンスですので、変化のスピードが早い今の時代についていきたいです!
共創担当 羽鳥:私も、日野とLMさんとのスピード感の差をものすごく感じています。企業規模や意思決定のプロセスの違いがあるため、仕方ないのですが。できるだけ、その差をなくしていきたいですね。

3. ベンチャー企業とのタッグでお客さまにうれしさを

――――今後の展望や、事業化に向けての意気込みをお願いします

LM 桐谷さん:これまで、日野さんが「トラック」という良質なハードをつくってきた副産物として、位置情報が生まれています。それを使って新しいことができるのは、奇しくも時代の流れに乗っているからこそです。これをうまく活用して、対話を重ねて、新しいビジネスラインをつくり上げていきたいです。実は、我々がやりたいことは、今回の提案の他にもたくさんあります。ぜひ、積極的に交流して検討したいと思っています。せっかくのご縁ですので、ベンチャーとの取り組みを楽しんでいただけると嬉しいですね。
共創担当 加藤:私の所属する新事業企画部も、新しい社会の動きや流れに対して、日野が提供できるソリューションの可能性を探っています。そういう意味でも、LMさんとの共創からヒントを得ながら、相乗効果を生み出したいです。
共創担当 歌谷:ぜひ一緒に、お客さまの困りごとにマッチしたソリューションビジネスを成功させたいと思っています。もっと車両にこんなデータがあれば、さらにビジネスを拡大できるといった提案もいただければ、当然、仕込んでいきたいと思っています。
共創担当 村上:デモデイまでの約1カ月の共創を通じて、かなり刺激を受けました。事業化のアイデアはもちろんですが、物事の考え方や視点の持ち方についても得るものが多くありました。桐谷さんのコメントにもありましたが、まずは、私たちが楽むこと。それが、お客さまに喜んでいただけるものを生み出すことにつながると思っています。
共創担当 羽鳥:この提案は、本当に日野だけではできないビジネスです。オープンイノベーションの意味を改めて感じています。突破口が開けば、どんどん拡大していくと思います。その中で、やはりお客さま目線を大切にしながら、事業化を目指していきたいです。

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