HINO

柔和な物腰に輝かしい功績を隠す
“攻めるために呼ばれた男”塙郁夫

“新人ドライバー”は砂丘が大嫌い!?

オフロードレースを中心に、まさに伝説級の活躍を続けてきた塙だが、ダカール・ラリーはこれが初挑戦。だからこそ冒頭の「走ってみないとわからない」という発言は、隠すことのない塙の本心だろう。

「僕がやってきたバハ1000(メキシコのバハ・カリフォルニア州で開催される約1000マイルの過酷なノンストップレースで、塙は過去にクラス優勝も果たしている)に代表されるオフロードレースは、スタートしたらひたすら全開で突き進む感じだし、ダカールのようなラリーはもっと緻密に毎日を積み重ねていく競技。似て非なるものなんです。ちなみに、ダカール・ラリーと言えば砂丘のイメージですが、僕は大嫌い。これまで参戦してきたモンゴル・ラリーにも簡単な砂丘はあるし、バハ1000にも砂丘やシルト(非常に粒子が細かい土)はあるけど、例えばコースの7割が砂丘なんてことはないですから。僕は、スタックするのが本当に嫌い。そういう場所を歩きたくないから、クルマに乗っているんですから。ダカール・ラリーでスタックしたら、トラックを放置して徒歩で帰っちゃうかもしれないですね」

バハ1000は、メキシコで開催される世界最大のオフロードレース
バハ1000で日本人唯一のクラス優勝を達成(2002年)

塙の言葉は、いつでもどこかお茶目。それが厳しい世界で長年にわたりプロフェッショナルなトップドライバー&ビルダーとして活躍してきた経験の中で蓄積されたものなのか、それとも幼いころから持つ人間性なのかはわからないが、周囲を和ませるすべを知っている。その雰囲気に引き込まれると、彼が世界を相手にレジェンド級の功績を残してきたことを、つい忘れそうになる。そしてこう感じるのだ。既存のチームに加入して馴染むことなど、塙にとっては朝飯前だ、と。

意気込みすぎない男が持つ凄み

一流ほど謙虚である。これは、まさに普段の塙だ。「日野チームスガワラ」における自身の役割について聞かれても、「なにせ一番の新参者ですから、そんな大層なことは言えないですよ」とほほ笑みながら、「年長者であることだけは間違いないので、みんなの気持ちが浮ついたときに、落ち着かせることができる存在ではありたいと思います」と、やはり大きなことは言わない。

しかし、塙がまとう柔らかな雰囲気や控えめな言葉に騙されてはならない。塙の言葉を借りるなら、これまで塙が経験してきたレースと「日野チームスガワラ」が戦うダカール・ラリーは、似ているようでまったく異なる世界ではあるが、どんなカテゴリーであれ塙はワールドクラスのレースでの“勝ち方”を知るドライバーであり、同時に“勝てるマシン”を製作してきたビルダーでもある。それも、ダカール・ラリーと同じように異国の地を舞台に……。同じチームに迎え入れて、これほど頼もしい存在はない。

「2020年のダカール・ラリーは中東のサウジアラビア開催ですから、お酒はやっぱりダメなんですかねえ。ゴールしたらビールくらい飲みたいんだけど……」とか、「うちの奥さんから『あなたがダカール・ラリーに出場すると、正月も私はひとりぼっちじゃん』と責められているんですよ(笑)」なんて、ユーモアたっぷりの自然体で周囲を和ませながら、その裏で偉大なるレーサー&ビルダーは、トラック部門総合優勝を狙う「日野チームスガワラ」と日野自動車に、エネルギーを少しずつ確実に注ぎ込んでいく。

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INTERVIEW DATA

  • time : 04'50"