柔和な物腰に輝かしい功績を隠す
“攻めるために呼ばれた男”塙郁夫

おもしろそうなクルマは、何でも作って乗ってきた
Ikuo Hanawaは、ハンドルを握るレーサーとしてだけでなく、マシンを製作するビルダーとしても、アメリカを中心に名を馳せてきた。
「ビルダーとしての本格的な経歴としては、アメリカのレースで走るためのパイプフレーム製バギーを製作したのが最初。土の上を走るF1みたいなもんと思ってもらえればいいかな。その後、日本でもSUVブーム(四駆ブーム)が到来したこともあり、市販車のカタチをしたレーシングマシンを手がけてきました。十数年前あたりからは電気自動車も自分で設計して、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム(アメリカの超有名なヒルクライムレース)にチャレンジしてきました」
塙は、そのパイクスピークでは電気自動車部門の初代チャンピオンに輝いている。専門はオフロードだが、ヒルクライムもサーキットもラリーも走る。これを塙本人は、「おもしろそうなクルマは、何でも作って乗ってきた」と表現する。
「誰よりも速く走りたい、というのがレース活動のスタート地点でしたが、走っているとクルマの改善に関するアイデアが思い浮かぶことが多いんです。オフロードのレースはレギュレーションが緩めな傾向なので、誰も理想のマシンを製作してくれないなら自分で作っちゃえというのが、ビルダーとしての出発点。自分で製作したクルマを自分でドライビングして、その性能を世界に証明する。これは、単純にレースで勝つことより3倍くらいうれしいんですよ。もっとも作って走る労力は、ただ走るよりも10倍くらいだって、後から気づいたんですけどね」


大博打する必要は一切なし
そんな塙が、今度は「日野チームスガワラ」のドライバーとして、日野自動車が製作した新型車を駆る。当然ながらそれは、塙が培ってきたビルダーとしての豊富な知識と経験も買われた人選である。
「気がついたら約40年もこんなことをやってきたので、それなりの経験は積んでいます。チームがそれを評価してくれて、新たなメンバーとして受け入れてくれることに感謝しています。なんかこの歳になって、とても大きなボーナスをもらった感じ」
塙自身も、自分の役割を十分に理解している。だからチームに合流する以前から、マシンの性能がより向上しそうな改良案を、塙なりにいくつか考えてきた。しかしボンネットタイプの新型車をシェイクダウンした段階で、それらはひとまず封印するつもりでいる。
「シェイクダウンで乗った限りでは、非常にバランスが良い印象。アメリカのレースで使ってきた、スピードだけを追求しているピックアップトラックと比較して、違和感がほとんどない。このチームで自分ができることはたくさんあると思っていますが、新型車とはいえスタート地点のレベルが非常に高いので、大きな博打を打つようなことはやる必要がないという認識。新しいサスペンションの提案とか、いくつかの構想を隠し持ってきていましたが、いまは一歩ずつ確実に熟成を進めていくべきだと思います」
