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「ハードルは高いほうが燃える」
挑戦を楽しむ榎本満・チーフエンジニア

技術者のモチベーションをラリーで上げる

2020年のダカール・ラリーに向け、榎本をチーフエンジニアとして日野自動車における体制は大きく強化された。もちろんこれは、目標であるトラック部門の優勝争いを狙える総合上位を獲得するための布石である。

「これまでのマシン開発は、ごく一部の技術者が対応してきました。しかし新体制になり、社内に存在する20ほどの技術部門から専任の技術者を選抜して、より大きく結束力が強固なチームとしてマシンを開発していくことになりました。日野自動車全体でダカール・ラリーのマシンを開発していこうというスタンスです」

ただしこの新しいプロジェクトは、レースにおける好成績を追求するためだけが目的ではない。「社内にもたらす効果も大きいはず」と榎本は語る。

「量産車開発では体験できないような技術開発を、短期間でカタチにしなければならないため、技術者にとってハードルは非常に高いのですが、そのぶんやりがいがある仕事と考えています。そこに関わることで技術者のモチベーションが上がります。開発の手法や考え方などが技術者それぞれに経験として積み重ねられ、それが後に量産車の開発にも活かされていくということが、大きな意味を持っていると考えています」

車両開発・整備に一致団結する、新生チームダカールメンバー

「仕事は楽しいものなんだ!」

日野自動車社内メンバーで構成される「新生チームダカール」が本格的に立ち上がってまだ3ヵ月ほど。「みんなが集まって議論する場というのは、まだそれほど多くない」と榎本は言う。とはいえ、「これから具体的な仕事が本格化すれば、ポテンシャルを発揮してくれるはず」と期待している。各技術者の士気を強く感じているとも話す。

「ダカール・ラリーというのは、現在の日本ではあまりメジャーではないと思っていますが、そういう状況にあっても近年は、日野自動車への入社理由にダカール・ラリーへの挑戦を挙げる人が増えている気がしています。それだけに『新生チームダカール』は、社員が誇りに思ってくれるような活動にしていきたいんです。レース活動なので、上位に入賞することが応援してくれている方々の喜びにもつながるはず。まずはトラック部門の総合5位以内を目指します!」

そのために必要な性能も、榎本はもちろん理解している。トラック部門の総合成績で競合する上位勢は、総排気量13リットル以上の大型車。対して日野自動車は9リットルで、通常はこれがマイナスの要素と捉えられる。しかしエンジンが小さいぶん、車体は軽量。この利点を活かしながら馬力を上げ、「加速力では大型クラスと同等かそれ以上の性能を発揮する」というのが、総合上位を獲得するための筋書きに欠かせない要素となる。

「これまでのマシン開発は、完走を比較的重視したものでした。しかしこれからは、マシン開発においてもより攻めの姿勢で、例えばエンジンに関しては壊れるリスクが高まるとしてもドライバーが求める出力特性にするなど、リタイヤも辞さないアグレッシブな開発をしていきたいと思います。ダカール・ラリーは、技術者を成長させてくれる場。開発のハードルは非常に高いですが、それをクリアしていく喜びもあります。だから若い技術者にも、ダカール・ラリーの開発を通じて、仕事は楽しいんだということを実感してもらいたいと願っています」