HINO

「ハードルは高いほうが燃える」
挑戦を楽しむ榎本満・チーフエンジニア

動きはじめた渾身の新型車

榎本満は、安堵していた。
マシン開発をクロスカントリーラリーに例えるなら、新型車を開発して初めて走らせるというのは、レース序盤のチェックポイントを通過したくらいの段階。ここからテストやレース参戦をして、課題となった部分を改良し、またテストやレースで走らせ、熟成させ……と活動を続け、いずれ目標とする順位を獲得するという未来を考えたら、まだまだ先は長い。それでも、シェイクダウンにおける「十分なポテンシャルを感じる」というドライバーからの評価は、このチェックポイントを目標以上の順位で通過したということに等しい。

「ここに向けた準備ということはかなりの期間をかけてきましたし、新しい装置に関しては、もちろん設計的にあれこれ仕込んであります。とはいえ、実際のクルマになってみないと未知数というところもあるので、無事にシェイクダウンを終えてほっとしています」

榎本は今年4月から、日野自動車のダカール・ラリープロジェクトにおいてチーフエンジニアを務める人物。これまでも車両の開発をメインに担当してきたが、今後は日野自動車社内でダカール・ラリーに関わる開発メンバー約70名の「新生チームダカール」をリードする立場にある。

テスト走行を見守る榎本満 チーフエンジニア
2号車:北米専用車(HINO 600シリーズ)

量産車ではできない体験をダカールマシンで

「チーフエンジニアを任されて、プレッシャーがないと言えば嘘になりますが、それだけいろんなことを決めていけるということ。開発者として、これはとてもうれしいことです」

榎本は、現在の境遇をある面で楽しんでいる。ダカール・ラリーに関わるようになったのは4年ほど前から。現在の参戦車両に搭載されている、総排気量9リットルのA09Cエンジンが採用されるタイミングで、車両開発の全体計画を担当するようになった。ただしそれ以前から、サスペンションの技術者として開発に携わっており、ダカール・ラリーのマシンに長く関わっている。

「車両の全体計画を任された最初のころは、ダカール・ラリーに求められるものが厳密にはよくわかっていない状態だったので、じつのところ戸惑いもありました」

榎本は、当時を振り返って苦笑い。しかし経験を重ねる中で、理解を深めてきた。新しいマシンを完成させ、それがシェイクダウンの段階からドライバーの高い評価を得る。これは、現在の榎本がダカール・ラリーというものを本質的に理解していることの証明だろう。

「ダカール・ラリーのマシン開発というのは、技術者を育ててくれるプロジェクトでもあると思っています。技術へのチャレンジという要素が非常に大きく、量産車開発ではあまりできないようなことにも挑戦していけますから」

榎本自身も、そんな学びの場で大きな飛躍を遂げたひとりなのかもしれない。

塙 郁夫(はなわ いくお)ドライバーにシェイクダウンのフィードバックを受ける榎本チーフエンジニア