ダカールラリーの教訓を今に活かす

今、何ができるか。常に最善を尽くすことの、
その意味の深さをダカールは教えてくれた。

海外部品・サービス部 地区担当室 米州・オセアニアグループ 係長格 矢口義光氏
海外部品・サービス部 亀田次男氏
海外部品・サービス部 佐藤圭氏

San Rafaël にて我がチームのマシンの到着を待つ日野スタッフ
整備に熱が入る亀田氏と矢口氏 Granda–Dakar Rally 1996、Zoueratにて

ダカールラリーとは、単なるマシンとマシンの戦いではない。勝てるマシンとして、どう仕上げていくか。どう操るか。どの道を進むべきか。思わぬトラブルに出逢ったとき、どう対処すべきか。限られた時間と条件の中で、いかに最善の手を見つけていくか。そこには、必ず、「人」の判断が伴い、決して諦めない情熱と精神力が必要とされる。と、考えると、ダカールラリーとは、極限の中で「人間力」を問われる、人と人の競技と言ってもいい。今回の取材で、数多くのダカールラリー参戦者の話をお伺いしてきたが、つくづくそう思えてならない。優れた耐久性と高いポテンシャルを発揮する日野ダカールマシン。今年、18年連続完走の記録を更新し、ダカールマシンとして優位性を見事に実証し続けている。しかし、それは、ドライバーやナビゲーター、そして、選り抜きの日野メカニック、現地参戦できなくても協力を惜しまなかった多くの日野スタッフ、応援してくれた各国販売代理店の方々などの、様々な「人」の力、情熱、チームワークがあったからこそ、たどり着いたゴールなのだ。

マシンを整備する佐藤氏 モロッコのEr Rachidiaにて
マシンを整備する佐藤氏 モロッコのEr Rachidiaにて
真剣な眼差しの佐藤氏 モーリタニアのAtarにて
真剣な眼差しの佐藤氏 モーリタニアのAtarにて
Lisbon-Dakar Rally 2007
Lisbon-Dakar Rally 2007

日野本社のテレビ会議室。ここに、かつてダカールラリーのメカニックマネージメントとして参加した3人の日野スタッフが集まった。現在、海外部品・サービス部に所属する矢口義光氏と、佐藤圭氏、そして、同部署で人材教育を担当する亀田次男氏だ。佐藤氏は、アメリカデトロイト勤務のため、会議用テレビを通しての参加となった。久しぶりに顔を合わせる3人は、ダカールの想い出話に華を咲かせる。

過去6回という、3人の中で一番多い参戦経験を持つ亀田氏は、当時を振り返り、ダカールの魅力をこう語ってくれた。「ビバークの日野のテントには、ライバルでもある海外の他メーカーのスタッフが自然と集まってきた。我々が何よりもコミュニケーションを大切にしていたからだと思う。現地には最小限の部品と荷物しか持っていけないので、例えば、ボルトやナットが無ければ、たとえライバルであったとしても貸し借りをする。人と人のつながりの大切さをダカールで改めて学んだ」。参戦経験5回を数える矢口氏も言う。「レースが進むにつれ、次第に現地の人々や空気に溶け込んでいく感じ。次の年も参戦した際に、地域の人たちが、自分達を覚えていてくれる。こんなうれしいことはない」。そんなエピソードを聞くと、世界一過酷と言われるこのレースは、実は、国境を越えた人と人のつながりのあたたかさを身をもって知る、世界一優しいレースなのではないかとさえ思えてくる。

他にダカールラリーが教えてくれたことは何か。3人に尋ねてみた。「今、できる最善を尽くすこと。マシンが壊れても、たとえ部品が無かったとしても、何とかしてクルマを動かす」。そう答えた佐藤氏の言葉に、矢口氏も亀田氏も深く頷いた。「私は研修センターで各国のトレーナーの技術指導を担当しているが、常にこう教えている。商用車であるトラックは、1日でも止まっていると損失につながるという意識をもつ必要がある。暫定措置でも、1日たりとも車が止まらないように、お客様の営業がとまらないように努力することが大事であると。ダカールのレース上と全く同じ(亀田氏)」。日野がトラックの先に見ているのは、お客様のこと。やはり、「人と人のつながり」の大切さを、そこに強く感じる。マシンを媒介とした、人と人の競技であるダカールラリーは、コミュニケーションのあたたかさや、ベストを尽くすことの大切さを教えてくれるレース。それが、参戦者だけでなく、観戦者に伝わるからこそ、長きに渡って愛され続ける「世界で最も過酷なレース」なのだろう。

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